■やすらぎのもとで■
そこに居るだけで心がやすらぐという空間があります。しかも、座ったり、横になるなどの
リラックスできる格好で過ごすことができたら、立ちっぱなしでいるよりやすらぎを感じることも多いものです。
仕事柄、休日に私は建物を見ながら、絵画を観て、疲れた体を休めよう!と美術館に行くことがあります。ところが、人の波に押されてゆっくり座って観ることができないからでしょうか、無機質で「冷たい」と感じる空間にいるからでしょうか、「やすらぎ」とはほど遠い「疲れ」を感じて帰ってくることが何度かあります。これは私のわがままなのかしら…?美術館に「やすらぎ」を求めてはいけないのかしら?
そんな中、車で1時間あまりの場所に私は「やすらぐ美術館」の1つに出会うことができました。ちょうど静岡県天竜市にオープン(98年4月)したばかりだった「秋野不矩(アキノフク)美術館」です。街を見下ろすことのできる小高い丘の上に建ち、緑に囲まれたその美術館は、入場制限をしていたこともあり入場するのに1時間かかりました。でもなぜか、並んで待っているときから心がやすらぐのです。ウグイスが鳴き、心地よい風が吹き、緑が美しいのです。何よりも、外壁にワラを混入したモルタルと土、そして木を使っている2階建ての小さな美術館が、「自然の多い環境に調和」していて、見ているだけでホッとさせてくれるのでした。
中に入った途端に私は、自然素材で仕上げられている「秋野不矩美術館」の”とりこ”になっていました。作品をほこりから守るために、入口で靴を脱いであがり、さらに展示室に入るときはスリッパも脱いであがるのです。第一展示室の床には籐のゴザ、第二展示室の床にはうすいピンクの大理石が貼ってありました。素足で床を感じることができるのです。もちろんイスなどありません、床に座って観賞できるのです! !(冬は床暖房)
凹凸感ある白い壁は絵を引き立てていました。
90歳を超えてもなお現役という秋野不矩さんの絵は、この建物にとてもマッチした、大胆さの中にあたたかさを感じる素晴らしいものでした。「秋野不矩さんの絵」と、「里山の環境」、そして「座」という私たちの「生活習慣」に調和させたこの美術館は、やすらぎの他に「何か」を気づかせてくれます。
床に座っての絵画鑑賞がこれほどまでに心地よいのは、絵を見るという行為が楽であるからだけでしょうか? こんなやすらいだ気持ちで絵画に感激したのは初めてのことでした。